好朋友(台湾)
 先日、台湾で私の大の親友(好朋友:ハオポンヨウ)に誘われてある会合に参加した。その人は私より20歳程年上であり、大先輩といった方が良いのか、好朋友と呼んで良いものか少しばかり考えながら筆を執っている。

 ある会合とは、その先輩の若かりし頃のスポーツ中間であり、野球、サッカー、バレーボール、陸上競技等で、日本統治時代、台湾でそれなりに名をはせた人達の御夫婦一緒での食事会であり、現在仕事の上でも会社社長、役員、銀行経営者、政治家、大学教授と、多方面で公私に多忙な中でも2ヶ月に一度幹事を持ち回りで開催しているとのことで、まさに好朋友の集いである。

 今回の幹事は台湾の音響学会の重鎮で、騒音規制の指導、国家規模アセスメント審査、若手教育者の指導等々多忙な毎日を送っている私の大先輩であったため、運良く訪台していた私を特別に中間として入れていただいた次第である。日本では何かの会合がある場合、必ず最初と最後にケジメ的に堅苦しい挨拶等セレモニーがある。しかし台湾の場合、特に食事を伴う会合の場合、阿吽の呼吸でそれは始まり、盛り上がり、頃合い良くお開きとなる。日本式のケジメがないのに驚かされる

 つまり食べ物は卓に並べられた頃合いと共に、次第に箸が出て順々に自分の小皿に取り口に運ばれる。しかし酒類に関しては、お互いが目で、言葉で合図し、一斉に盃(小さなコップか?)を上げ、酒は飲み干される。このような宴は、関係者が集まり始めた時からすでに始まっており、酒、あるいは食べ物が並べられた時が始まりではない。そのような物(酒、食べ物)は宴の中の一つの道具に過ぎないようである。今回の会食でも、その雰囲気は今まで何度も別の所で見てきたのと同じようなパターンに見えた。しかし、たった2ヶ月前に会ったのにもかかわらず、10年あるいはそれ以上会ってなかったかのように、近況や体の調子をお互い大声で、肩をたたき合い、手を握り合い、満面の笑みを浮かべている姿は他人のことながら、自分のことのように感動する。会食時のことである。疲れるのではないかという位の大声で快活に、しかし健康的な雰囲気で話題に花を咲かせて時間は過ぎる。ちなみにそっと騒音計で全体の雰囲気を測定してみた。約30分間の平均の音量が90dB(LAeq)と驚く音量であった。※
 




種々のことばが飛び交う好朋友の
集いの一場面



 台湾風のレストランは、我々日本人の耳からのぞくと、以前から総じて騒々しい。あまり客が居なくても調理場の火勢の音、調理器具の音、換気扇の音、それに仕事をする人達のざわめきなど、残留騒音的な物がある(LAeq:74dB)。さらに客が増えるにつれて、彼らの会話等に拍手や元々の音が加わり、店内全体の騒音のレベルは上昇する(LAeq:78dB)。しかし自動車や工場の音と音質が違うためか、嫌悪感を抱くような音ではなく、何となく親近感を持てる音の雰囲気である。このような店内で愉快に好朋友達が食事すると必然的に声も大きくなる。

 話題に事欠くことなく大きな声で喋り、笑い、食べながら、互いに酒を酌み交わす(ここでは酒は必ず誰かと一緒に飲み、一人で勝手に飲むことはないが)まさに好朋友達の健康の源であろう。

 さて会話であるが好朋友達は最低4〜5種類の言葉を使い分けている。北京語、広東語、客家語、台湾語(みんなん語)、英語等々、それにていねいな日本語である。彼らは一つの話題の中に、たくさんの言葉を散りめぐらせ会話をしているが、驚くほど日本語の部分が多い。たまたま筆者が同席をしているため、気を使って日本語を喋っている訳ではなく、いつもこのようであるとのこと。

 私の耳と目からは共通の言葉が日本語のように思えるくらい、使用する度合いが多い。好朋友達は、中学生位まで日本語での教育を、台湾あるいは日本国内で受けており、脳裏に言葉についても懐かしさと同時に、若い頃の面影の一部として残っているのではあるまいか。また大先輩同志、好朋友の集まりに気軽に迎え入れてくれる信頼感と人的つながりに心温まる思いであった。

(注) ※)LAeq:90dBとは、もしこの音が8時間続くとすれば聴力障害を生じる位の値である。日本においては、ILOの勧告等により平成4年労働安全衛生規則の一部改正を行い「騒音障害防止のためのガイドライン」を定め騒音職場を管理している。LAeq・8h:85dB未満の場所はそのレベルを継続維持することとし、LAeq・8h:85〜90dB未満の場合、作業環境を改善する、また必要に応じ防音保護具を使用しなければならない。

 言葉は民族によってその発音が異なり、特に日本語の口腔の構えと大きく違う。そのため同一の言葉を発声しても、その音量や周波数成分もやや違う可能性がある。
 先日筆者が台湾への往来に利用した航空機の機内放送でのこと、日本人がアナウンスした場合81dB・A(MAX)、中国人が日本語でアナウンスした場合88dB・A、また同じ人が母国語である中国語でのアナウンスでは91dB・Aであった。感覚的でなく、物理量としても中国語(人)の発声は大きなレベルか?





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