バリの田舎にて(インドネシア)
 神の棲む「バリ島」と言えば、儀式とガムラン、ケチャ、レゴン等の音と踊りを思い出すであろう。確かにバリヒンズーという独特の文化が遺産として伝統を失わないように大切に保管され、生活に密着したものとなっている。筆者は、そのような雰囲気を味わうため、毎年1〜2度はその地を訪ねるようにしている。

 毎年、毎回の事であるが夜もさめやらぬ早朝、にわとりの声があちこちで聞こえ始める。つづいて餌を取りに行く南独特の小鳥のさえずりが聞こえる頃(LAeq:52〜54dB)には、村のあちこちで朝げの仕度の煙が朝もやの中に立ち昇り、子供達が庭や路地を掃くホウキの音が、心地よいリズムで聞こえる(LAeq:57dB)。

  その頃になると、路地裏からリヤカーあるいは自転車を引きながら、「チン、チン、チン」とどんぶりを箸でたたく音が聞こえ始める。これは若い人が簡単に食事をするための行商人のサイン音である。大通りでは、次第に通勤の人々のオートバイや乗合自動車(バスではない)の騒音も混じるようになるが(LAeq:71dB)、その時はすでに鳥の声やホウキの音はない。

 また、村(バンジャール)で何か会議や重要な行事がある時は、「クル・クル」という神聖なスリットドラムを打つ。「クル・クル」の音が届く範囲がそのバンジャールの領域である。そのテンポや回数で内容が判別できるようになっている。

 日中は、涼しげな風に応えるように、各種の音具からの音が、今でも自動車等の騒音に混じって聞こえる。風車は「ピンジャカン」といい、竹筒のハンマーが打つことにより、コロコロと聞こえ、田畑を荒らす鳥を追い払ったり、作業する人の耳を楽しませている。風鈴「クリンチンガン」は、タニシを鈴なりにつけたものに釘が当たることで「シャラシャラ」と風に乗って聞こえてくる。

 時としては天空から「ピー」、「ヒュー」という音が降ってくる。「鳩とばし」の音である。これは鳩の首に付けた笛が、鳩が数十羽、あるいはそれ以上空中を旋回することで笛が鳴り、その音を村人が楽しむためのものである。
胸に風笛を付けて飛ばされる鳩

  またガムランを練習する音も路地裏からは聞こえる。また、祠の傍らには、必ずといってよいほど「スナリ」という音具(神具?)がある。これはやや太めの竹の胴に○や△あるいは十の穴を開け、この竹に風が当たるとその部分が笛の役目をし、かすかな「ヒュー」、「ボー」という音が発せられる。これは神様、あるいはすでに亡くなった人が一人で淋しくないように立てられるものである。

 車の通る道路に面したところでは、このような素朴な音は聞こえにくいものの、子供の頃の原風景を思い出す感がある。
夜の帳が降りると若者達が(男性のみであるが)集まり、夕涼みがてらラジカセで「ロック」風の音楽を聴きながら、時を過ごしているのは現代化の波か。

 しかしながら音楽のみでなく、種々の音が生活に密着して現在でもそこにあり、それを受け継いでいきつつあるというのは、まぎれもない事実である。(1999年)

 



棚田に設けられた「ピンジャカン」





風車「ピンジャカン」
鳥追い効果と楽しむ音




  風が吹くと
音を奏でる風笛
「ナスリ」





「ナスリ」の風琴用穴の形
形により共鳴で低い音が発生する。しかし穴に彫られた位置、形状により微妙にその音が異なりささやくような音ではあるが、神秘的に聞こえる。
色々な筒笛 空気を切ることにより異なった音色の音が発生 神聖な知らせを打つスリットドラム
「クルクル」

タニシの風鈴「クリンチンガン」




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